当麻賞


碧爽 深


1995年 4月2日 KKシステム 当麻賞

「じゃじゃじゃじゃーん」
 仙人のトウマは、多少形はいびつな中華鍋を両手で天に向かってつきあげた。
「完成!」
「おおおトウマくんすごい!」
「トウマくんすごい!」
 完成をじっと待っていたでっかい龍と、サイズ変換して蛇サイズになった小さい龍が短い両手で拍手した。
 何しろ長い戦いだった。
 鉄板を暖めて変形させるだけのことなのだが、これがなかなか難しいんである。龍の炎を熱源に使うと影も残らず蒸発してしまった。当麻が自分で熱源を発したときは、ぬるすぎて変形のへの字もなかった。それで一人と一匹あーでもないこーでもないと、適温を求めて実験を繰り返したわけだ。
「良かったねえトウマくん」
「うん、いろいろありがとうな若龍。若龍の炎の加減の仕方がうまかったおかげだよ」
「良かったのうトウマくん」
「うん、助かったよじっさま。じっさまの爪のお陰でちょうどいい丸みに作れたよ」
 トウマは手の中の、大きな中華鍋をくるくる回して上機嫌だった。これでもっといろんな料理が作れるだろう。この龍の谷の楽しみなんて料理ぐらいがいいところなのだから。
「んではトウマくん、完成を祝って酒盛りといこうかのう」
「賛成!」
 巨体をうならせて若龍が喜びを表した。蛇サイズのじっさま龍も、牙の脇から生えている触覚をくるりと丸めて楽しそうだ。
「ところで、じっさま。酒盛りもいいけど、俺さ、この鍋を『作れるもんなら作ってみせろ』って俺に言った生意気な野郎にも見せてやりたいんだけど…」
「おお、誰じゃトウマくんにそんな不敵なことを言う奴は。いいともいいとも。いっぱい自慢しておやり」
「そんじゃあ遠慮なく。あっ、じっさま、あれは何だ!」
 トウマがじっさまの背後を指差した。じっさまが振り向く。トウマがそのヘビ龍の頭に思い切り鍋を振り下ろした!
 トマトが潰れるような音についでどろろんと煙が発生した。その煙の中から、じっさまの中に眠っていたもう一匹の龍の姿が現れる。姿も言葉使いもまるで違う若い人格だ。
「…よぉくも、乱暴に『起こして』くれたなぁ、トウマ…」
「もーにん、『お味』はどうだい、セイジの旦那v」
 トウマには、酒盛りよりもこいつとの戦いの方が刺激的だった。    

   END


本のおまけにつけてたスタンプ企画景品のひとつ。異世界の仙人トウマと、老いた竜と若い竜の3人の物語の番外でした。  

鎧TOPへ

 


  総合TOPへ