今君のために


碧爽 深


『そこにいるのは、アヌビスか?』
「光輪!何故貴様がここに!」
『久し振りだな。こことは、どこだ』
「どこ…とは、え、ここは !? 何だ」
『ここは人間界の、柳生邸の私と当麻の部屋、ではないか?』
「…これは、いったい」
『私の方が聞きたい。突然この部屋の中に貴様が現れたのだ。これも、一連の異常の一部なのか』
「一連の異常?…そういえば光輪、貴様の声が…これは、口でしゃべっているのではないのか」
『口だけではない。目も耳もだ。今の私に通常の機能はない』
「何だと…!俺は今はなんともない。さっきまで、妖邪界にいたときは、頭が痛くなって、うるさくて、体中がばらばらになるほどだったのに。もうなんともない。…これは、貴様と関係があるのか」
『恐らく。あるとすれば…』
「鎧か!対成す鎧が…」
『対なす鎧が、戦いの後も、人間界と妖邪界で呼び合っている。その主たる私たちに、鎧が訴えてきているのだ』
「…ここのところ体を支配する突き刺すような気配は、人間界の物か。まさかとは思っていたが」
『鎧が、私たちを妖邪門にしようとしている』
「冗談じゃねえ!人の体を門がわりにされてたまるか!」
『それは私も同じだ。体から妖邪の気配がするのは気持ちのいいものではない。アヌビス、要は我々次第だ。妖邪門無き今、二つの世界の接点になっている私たちが、強く相手を拒み続けられるか』
「…拒む…?」
『そうだ。私が貴様を。貴様が、私を…だ』
「俺が、貴様を、…拒む…。そんな…ことぐら…」
『そうしばければ、いつか肉体が世界にバラバラにされるだろう…』
「そん…なこと、ぐらい、わけないぜ。二度と、貴様の顔なんざみたくもねえ!」
『すまんな』

「征士、アヌビスが来てたのか?もう大丈夫なのか?」
「ああ、当麻。心配かけたな。私とアヌビスの力のバランスが崩れ掛けたのだ。だがもう互いに維持できる。アヌビスには、少し辛い思いをさせることになったがな」
「え?」
「いや、何でもない。なんでも、ないんだ」   



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