さくらの頃まで


碧爽 深

「殺してやる」
「どうしたいきなり。ぶっそうだな」
「お前言っただろ。殺してもいいって」
「私が?当麻に?」
「あっ、忘れたのかっ !? 」
「覚えているとも。それがどうかしたのか」
「どうかしたじゃねえ!なんで俺がお前の分まで洗濯物たたんだり飯のしたくしたり、き、き…がえを手伝ったりするんだよ」
「得意だろう?それに、私が高熱で苦しんでいるときくらい気をきかせてくれてもよかろう」
「それが高熱で苦しんでる顔かっ。俺はな、世話やかれるのも焼くのも嫌いなんだよ」
「いつもはとてもそんなふうには見えないが?」
「いつもは、お前が勝手に世話やいてんじゃないか。俺が口をはさむまもなく。とにかくな、お前が倒れたからって俺が世話する義務はないんだからな」
「もちろんそのとおりだ。私は当麻にそうしろと言ったのではなく、そうして欲しいという願望を言葉にしてみたまで。それを苦痛と感じるならば、そうしてくれないでよい」
「なんだよ。あっさり引き下がったな」
「まだ死にたくないのでな」
「じゃ簡単に殺せなんていうなよ」
「なにをさっきからふくれているんだ」
「ふくれてなんかいないさ」
「そうか?ところで当麻、私が殺してもいいと言ったのは嘘ではないぞ。繰り返すがな。お前は与えられるだけだ。私はお前を愛し、守る。それに飽きたら、私を殺せ。お前だけに、それができる。それまで、私は何も失ったりはしない。当麻?きいているのか。こっちを見ろ」
「…お前、歯、浮かねえ?」
「歯はうかんが熱は上がった。当麻が下らないことをいうからだ」
「なあにが下らない…、え、マジで顔が赤いぞ。どれ、熱は…、うわ、ほんとに上がってる!どっ、どうしようっ」
「当麻、…嫌でなかったら、タオルを冷やしてきてくれるか」
「………嫌じゃないってば。悪かったよ。病人は例外。待ってろ。今持ってくる。氷枕がどこかにあったと思ったんだけどなあ」

  終

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