白い記憶


碧爽 深


「雪ってさ、あんまりいい思い出ないんだ。
 白状するとさ。
 子供の頃ってさ、あんまりコンピューターなんて興味なかったし、本読むにしたって、家にある量はたかが知れてるし、すごく暇で。
 それにさ、雪が降ると、ガキって、皆で遊ぶじゃないか。俺、それができなかったから…。
 頭よくてもさ、たいていの奴は、それでもしょせんガキだから雪合戦とかするんだよな。でも俺は、仲間に入れて欲しいって、言えなかったんだ。
 変だろ?たったそれっぽっちのことなのにさ。
 入れてくれって言って、断られるのが怖かったんだ。
 普通はさ、そんな時、母親が背中を押してくれたり、するもんだろ?
 うち、母親の背中を子供が押してるようなところあったから。
 あ、親が離婚したって話はしたっけ?
 …うん、そうなんだけど。
 それでな、俺っておまけに誘いにくい奴だったと思うから。
 今でもそう思うけど、クラスの奴等につっけんどんだったんだ。
 だって奴等ときたら、俺が5分でおわらせるパズルが何日かかってもできなかったり…、あ、ほら、ルービックキューブって知ってるか?
 立方体の9マスの色合わせのパズル。
 あれはさ、幾何学的に解法があるんだけど、そんなもん理解できなくたって、できるときはできるじゃないか。征士はできない?
 知らない !? 見ればわかると思うけどさ、一時期そういうパズルが流行ったんだ。
 それでな、そんなこともあったしで、よせばいいのに、結構、冷ややかに皆を見下してたんだ。
 だって奴等ときたら、
「羽柴はどうせ出来るのが当たり前だ。頭の良さをとったら何も残らないくせに」って、言うんだよ。 嫌になるよな。
 そのうち、嫌になるのも嫌になってきて、家で、ずーっと、ひとりでいることが多くなった。
 雪が降るのを見てるとさ、珍しさや、美しさ、なんてもん、だんだんどうでもよくなってきて、ただ、…こう、なんていうのか、ほんとに」

「悲しい」

「…そう。なんか、泣…」

征士、当麻の肩の手を伸ばし、とんとんと叩いた。



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